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プレミアムカードの時代

○八年八月二十日、大阪市北区のガールズバーで酒を飲み、酔ってボトルを投げたり、店長を殴りつけたりした元大リーガー伊良部秀輝(39)が現行犯逮捕された。支払いの時にみせたクレジットカードを店長から「使えない」と断られたのが激高した原因だったそうだが、彼がもっていたのは年会費三十六万七千五百円という「アメリカン・エキスプレス」で最上級のセンチュリオン。チタン製で表面が黒く光っているため「ブラックカード」と呼ばれる。

他社の最上級カードが五万円から十万円の年会費だから飛び抜けて高い。その分、夢のような特典、サービスが数々用意されている。たとえば、もっているだけで、宿泊ホテルの部屋が自動的にランクアップされたり、航空機一機まるごとチャーターできたりする。また、電話一本でほとんどの用件を聞いてくれるコンシェルジュサービスもあり、至れり尽くせりだ。しかし、一般のサラリーマンが欲しいと申し込んでも、アメックス社が年収、職業などの審査で「優良」と判断して、インビテーション(招待)してくれないと絶対に持つことはできない。

審査条件としても年間利用額が一千五百万円以上は必要といわれ、セレブでなければ持てない「幻のカード」なのだ。伊良部が持てたのは、かつて大リーグで、年俸三億~五億円を稼いだ実績があったからで、さらに米国ではニューヨーク・ヤンキースの投手として十分すぎるほどの有名人だったからである。そんな選ばれた人物だったはずなのに、あっさり「使えないよ」といわれたものだから、自尊心が傷ついたのだろう。大暴れして警察沙汰になってしまった。

それにしても、なぜこんなことになってしまったのか。元来この店はアメックスの加盟店ではなかった。場末のガールズバーがアメックスの加盟店になんかなることは難しい。だから、店側とすれば、「アメックスは使えません」と素直に断ったにすぎない。それを伊良部は面子を潰されたと思い、勘違いして大暴れしたのだった。その後に失敗に気付いたようで、三万八千四百円の飲食料金は別のカードで支払ったという。